1月12日(木)
走行距離530キロ
昨日のミスを引きずっている。
バッテリーはどうなるのか·修理屋は来るのか来ないのか?
昨夜は気になって何度も目が覚める。落ち込まざるを得ない。
6時にモーテルの食堂へ行って軽くサンドイッチを食べる。
30分程時間を潰して、スタンドの駐車場の奥に目をやると、
そこにはバイクを牽引キャリーで運ぶワンボックスが泊まっているではないか。
ひょっとしたらウィルソンさんが来てくれたのか?
もしそうでないとしても、バイクにかなり精通した人がいるに違いない。
早速バイクの所へ行く。燃料を間違えて入れ、
バイクが動かなくて困っていると事情を話し、助けてくれと頼む。
年の頃は50歳前後、奥さんと一緒にパース方向に行く途中との事。
快く修理を引き受けてくれた。
スティーブマックイーンに似た男で名前はスティーブ。すぐに覚えられた。
朝飯を食べてから行くから待っていてくれ、とスパゲティーを茹でていた。
奥さんが売店から出てきた、何やらスティーブが事情を説明していた。
どうやら私の事が気に入らないらしい。奥さんには笑顔がない。
しかしスティーブは私を助ける事に乗り気だ。
車には修理道具が沢山あった。9時頃から修理を始める。
まずガソリンタンクのガソリンを全部捨てなければいけない。
それも昨日の様なホースで吸い出す様なやり方ではなく、
車体からタンクを外してタンクをひっくり返し、燃料を全部出し切るという。
藁にもすがる思いの私は彼の指示に従うしかない。
カウリングで全部囲ってあるGTRはどこがどうなっているのか全く分からない。
手探りでカウリングのボルトを1つ1つ外す。シートも外す。
やっとの思いでタンクを外す事が出来た。
スティーブもホンダ1000Rを持っているが、
もちろん私の1400GTRは初めてだ。ガソリンを捨てる。
今度はガソリンを新しく5リットル程入れた。
タンクからピストンまでの燃料をどうやって抜くかが分からない。
仕方ないのでセルモーターを回す事にした。
何度も挑戦したのでバッテリーが上がってしまった。
仕方なく車のバッテリーを利用してセルを回す事にした
。少し回すとエンジンからボコボコ音が出始めた。
エンジンが回り出しそうな気配である。
その後、黒い煙が出て回り始めたではないか。私は手を叩いて喜んだ。
不機嫌そうなスティーブの奥さんも喜んでくれた。
5分位は煙を出しながら自力でエンジンが回った。
次第に元のエンジン音が戻り、完全に元に戻った。
何度も何度もスティーブと握手を交わした。
スティーブも自分の事の様に喜んだ。これで旅が続けられる。嬉しい。
もうこれで旅も終わりか?あるいは1週間位ここで足止めをくらうのか?
との悩みが吹っ飛んだ。
それから元のカウリングの状態に戻すのが大変だったが、11時頃には何とか様になった。
スティーブに『時間を取らせてしまって申し訳なかった。
元に戻って本当に嬉しい』とお礼の500ドルを渡した。
スティーブは『俺は金が欲しくてやったんじゃない、いらない』と言ったが、
2~3時間もこの俺の為に大切な自分の事を顧みずしてくれた。
その好意が本当に嬉しかった。何とか受け取って貰った。
11時にサウスオーストラリア州に向かって出発した。走りながら、
なぜ軽油をタンクに注入するミスをしたのか考えた。
それはリットル当りの単価が他の所と違っていたからだ。
経由の単価が1.53ドル/リットルと異常に高かったからだ。
単価を見た途端、これはガソリンだと思い込んでしまった。
給油機の上にディーゼルと大きく記載してあったのに見落としたのだ。
そこはガソリン2ドル/リットルと今までで一番高いスタンドだったのだ。
とんでもない失敗をして、多くの方に迷惑をかけて申し訳なく思う。
これからはもう少し自重する様、肝に命じた。300キロ走ると州境が見えてきた。
空は少し怪しい。曇り空と思いきや、どしゃぶりではないが雨が降り出した。
その後はモーテルに入るまで降ったり止んだり。しかし雨具は着なかった。
南海岸沿いの道路は右に水平線の見える海。左は地平線の見える低木草の大平原。
その中を直線に近い道路が延々と続く。本当に来て良かったと思い直す。胸がワクワクする。
車速は140キロ位出ていたと思う。大体バイクの心地よい速度は80~90キロだが、
GTRはカウリングがついているので車速が120~140キロでも全く問題はない。
オーストラリアに来て、感動する事に麻痺した自分も、今日の530キロの走行は、
改めて雄大な自然の中で走る事の喜びに再び感動した。
今夜のモーテルも今までにない、360°地平線の中にポツンと1軒だけある、
ナラボーンという土地にあるモーテルで、外へ出てもとても気持ちが良い。
昨夜と今夜は月とスッポンだ。
2013年 4月 13日 更新 | オーストラリア大陸2万キロのバイク1人旅